腫瘍マーカーの偽陽性について〜知は力なり

 


このページは他のいくつかのページと異なり真面目なページです。

腫瘍マーカーでポジティブと出ても偽陽性である(すなわちがんでない)確率は意外と高いものです。それを私自身の体験記を通してお見せいたしたいと思います。検査結果が悪くても徒に心配することのないようにと念じ、書かせていただくことといたしました。私が多くの方のホームページを参考にさせていただいたように当記事も何かの参考になれば幸いです。ただし、私は医学関係者ではないので、不正確な表現等があるかと思います。その点お赦しください。またこのページに書かれてあることは(検証されていない)私個人の考えであり、その利用による如何なる不利益、損害等の賠償等にも応じかねますので予めご了承ください。

また、担当医の方は説明も非常にていねいで、うるさい質問にもきちんと答えていただき、感謝しております。この場を借りて御礼申し上げます。(2004.4.1)


腫瘍マーカーとは(国立がんセンター)

 

CEAマーカーが反応するがん

CEA(Carcinoembryonic Antigen)が反応するがんはいわゆる腺がんと呼ばれるもので、これには胃、大腸、膵臓、肝臓など腺組織を持つ臓器のがんが含まれる。腺組織が何らかの理由で損傷するとCEAと呼ばれる抗原が血中に流れ出し、その値が高まる。がんのほか、肝炎などでも上昇。また、喫煙による上昇も報告されている(松井は喫煙はしない)。何冊かの医学書によると、CEA値が5ngを超えるとがんを疑い、10ngを超えるとがんを強く疑うと出ている。

 

CEAマーカーはとくに偽陽性の高いマーカーである。

米国では偽陽性率が高いので、スクリーニング(健常者対象にその病気の有無を調べる)における有効性は疑問視されている。CEAはしばしばがんの手術後のモニタリングとして使用され、効果をあげているようだ。何らかの症状を訴えて来院した者には効果がある。この裏側にある論理は以下のごとくである。

まずがんであるときにCEAが反応する確率を(がんのステージおよび部位によって異なるが)仮に40%としよう(結腸がん;StageA、B)。またがんでないのにCEAが高い確率は約10%とする。たとえば結腸がんの割合を1000人に1人とすると、健常者の場合、検査結果が陽性であった人のうち実際に結腸がんであるのは250人に1人である。また、これを松井の年齢・性別に当てはめてみる。腺組織のある部位のがんの罹患率を合計すると、10万人あたり31人なので、松井の年齢・性別では陽性者ががんである確率は実に0.12%となる。国立がんセンターのホームページによると偽陽性の確率は20%と出ている。この数字をどうやって計算したかはわからないが、健常者が1回の検査結果で陽性が検出されたときに実際にがんである確率は極めて少ないと言える。(注:上記数字は参考文献のどこかにありますが、もう一度調べる気力はありません。悪しからず)

それに対し、何らかの症状を訴えて入院した者の場合、このうちの10人に1人が腺がんであるとすると、CEA陽性者のうち腺がんである患者の割合は40%となる。

 

しかし、健常者であっても同一個人において、経年でこの値が上昇するケースにおいてはがんの確率は高まる。

ある報告によると、特定のオフィスに勤務している健常者を3年にわたって調べ、CEA値が4ng以上上昇した健常者を対象に精密検査を行ったところ、36人中3人ががんであったという。単純計算だと、約8%の確率でがんということになる。CEAも単発ではなく、経年変化を追うことで重要なスクリーニングデバイスとなるのかもしれない。

 

がん患者の術後のモニタリングには有用である。

がんの手術後の再発とCEA値の間には高い相関が見られるようである。CEAマーカーの有用性は正に使い方一つに懸かっている。

 

この辺りの記述に関しては、ASCOのホームページ(英語)が詳しい。

 

 

松井のケース

2001年: マラソンから約1ヶ月後の血液検査においてCEA値が15.4ngに達する。カットオフレベルが5ngなので、その約3倍。早速病院へ行く。再検査の結果もほぼ同じ。レントゲンはもとより、CT-Scan(計3回)、内視鏡(上下)、MRIと約週1回のペースで検査が続く。ちなみに2年前の検査では3ng。担当医の方はこの上昇を見てほぼがんと確信したようだ。がーん、としゃれを言っている場合ではない。がんで逝った友人たちの顔が眼に浮かぶ。通常病院では待たされることが多いが、このときは矢継ぎ早に事が運んでいく。VIP待遇である。喜んでいる場合でもないのだが、、、

内視鏡で異常がなかった辺りで偽陽性の可能性を調べてみようという気になる。Internetなどで腫瘍マーカー、がん関係の文献を調べる。いくつかの文献から偽陽性の確率を計算してみる。松井の場合は上記のように最低約8%である(これは4ng以上上昇した場合の数値。12ng程度上昇した場合のデータは見つからなかった)。ちなみにこの段階でも、担当医の意見ではがんの確率50%、ミーティングでは他2名の医師から67%程度との意見が出されたとのこと。いわゆるProfessional Judgementなのだろうが、統計に関しては必ずしも明確な回答が得られない(批判しているように聞こえてしまったら赦されたい)。

 

仮説:

マラソン等の激しい運動でCEAが血中に流れ出す、という仮説をCEA値上昇の代替的な説明として置いてみたい。これに関して担当医の方に告げたところかれも調べてくれたらしいが、報告はないとのこと。松井も調べたが見つからず。今後の研究課題であろう。これに関し、何らかの研究報告をご存知の方がいたらご一報いただけると幸いである。報告がこれまでない以上、このような例がいくつか集まれば、いい論文になると思うのだが、、、

 

その後:

松井のケースでは、CEA値とマラソンの練習量が比例関係にあることが見て取られた。半年後のマラソンの後、再びマーカー値が上昇してしまったので、時期をおいて再検することになった。CTももう1回行う。異常なし。今日(2004年4月)に至る。過度の練習は健康によくないとの判断により、最近は月間100km前後ののんびりランナーとなる。同情されるおそれも何かの言い訳に使う心配もなくなったため、参考になればと考え、このページをUPすることとする(主要部分の作成は2001年)。

 

自分の病気に関する勉強のすすめ:

検査を受けていた2ヶ月間ほどは医学の関連論文を読みあさっており、このことが不安の除去に少なからず貢献しました(ていねいに読んだのが数本、Scanしたのは数十本、医療機関や個人のホームページも参考になりました。内容はかなり忘れてしまいましたが)。担当医の方も十分に説明してくれましたが、自分で論文を読みこみ、病気を客観視することは重要です。論文は本よりもさらに客観的かつ厳密に問題に対処しているからです。正に知は力なりということを実感しました。また、余命に応じて書くものを決めようと思っていたおかげで『慣習と規範の経済学』 (東洋経済新報社)を世に問うことができたのも大きかったです(謝辞に変に力が入っているのはそのせいかもしれません)。そういうわけで、この本と同じころ出た『金融ビッグバンの政治経済学』(東洋経済新報社)の著者である戸矢哲朗氏の気持ちも少しだけわかります(もっとも私は告知を受けたわけでもないので、そのときになってみないと取り乱すか否かはわかりません)。

 

文献およびホームページ:

これに関しては、ASCO(英語、かなり詳しい)、American Cancer Society(英語)および国立がんセンターを参照のこと。

論文リスト